
カワサキ500SS。正式名称「H1 マッハIII」。
危険なバイクとして有名だった。「Widowmaker(未亡人製造機)」というあだ名がアメリカでついたくらいで、旧車好きの間でもその評判は知れ渡っていた。それでも買った。旧車独特のあのスタイルに、完全に惚れ込んでしまったからだ。
会社員時代の話だ。


スペックという名の狂気
まず数字を並べておこう。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| エンジン | 2ストローク 空冷3気筒 499cc |
| 最高出力 | 60PS / 7,500rpm |
| 最大トルク | 5.5kgf・m / 7,000rpm |
| 変速機 | 5段リターン |
| 車両重量 | 約174kg(乾燥) |
| 最高速度 | 約200km/h |
| 生産年 | 1969年〜1976年 |
| タンク容量 | 15L |
174kgに60PS。パワーウェイトレシオだけ見ても当時としては完全に異次元だ。しかも2ストロークの爆発的なパワー特性が加わる。低回転はおとなしく、パワーバンドに入った瞬間にドカンと来る。現代の電子制御だらけのバイクとは根本的に次元が違う。
これを旧車として中古で手に入れた時、正直なところ少し怖かった。



あの音が、すべてだった
500SSを語るなら、まず音の話をしなければならない。
騒音規制のない時代のバイクだ。現代の基準で言えば、走っているだけで問題になるレベルの音が出る。キック始動の瞬間から、それは始まる。「ドドドドッ!」と目覚めたエンジンの音は、純正マフラーとはとても思えない爆音だった。近所迷惑だとわかっていながら、朝の始動のたびに心が躍った。


そして1速、2速での全開加速。
左右3本ずつ6本のエキパイから噴き出す白煙と、甲高い3気筒2ストロークの咆哮。「キーン!」という音とともに視界が後ろに流れていく感覚は、今も体に染み付いている。あれは快感だった。危ないとわかっていながら、また開けてしまう。そういうバイクだった。


JAFに2回お世話になった
旧車乗りに覚悟が必要な理由を、このバイクは教えてくれた。
ツーリング中にエンジンが止まり、自走不能になったことが2回ある。どちらもJAFのお世話になった。電話しながら「また来てしまった」と苦笑いした記憶がある。2ストロークのシビアなキャブセッティング、プラグのかぶり、オイル管理のシビアさ。ちょっとした油断が命取りになる。


そして一番信じられなかったのが、フロントスプロケットが外れるトラブルだ。
走行中にスプロケットが外れるという、聞いたことのないようなトラブルがH1では実際に報告されていた。「まさかな」と思っていたら、本当にやった。幸い低速走行中だったので大事には至らなかったが、あの瞬間の「え、何が起きた?」という感覚は忘れられない。H1乗りの間では「あるある」らしいが、実際に経験するとさすがに笑えなかった。


最後は電装系に負けた
旧車の敵は、最終的に電装系だ。
走れば走るほど、電気系統のトラブルが増えていった。突然エンジンがかからない。メーターが動かない。ウインカーがついたり消えたりする。50年前の配線は、現代の環境に少しずつ音を上げていく。部品を探して修理して、また別のところが壊れて。その繰り返しに、ある日限界が来た。


手放した時、正直ホッとした部分もある。でも、今でも「あのバイクにもう一度乗りたい」と思う瞬間がある。

それでも、また乗りたい
FIREして時間ができた今、旧車との向き合い方を改めて考えることがある。
あの頃は会社勤めの傍らで維持していたから、トラブルのたびに「時間がない」「お金がかかる」とストレスになった部分もあった。でも今なら違う。時間もある。気持ちの余裕もある。旧車のトラブルすら、楽しめる気がする。


ブラウンとゴールドのタンク。6本のエキパイ。キック始動の爆音。1速全開の白煙。
また乗ってみたい。本当に。
旧車万歳。カワサキ500SS、お前は最高だった。

■ カワサキ500SS(H1 マッハIII)|1969年デビュー / 499cc 2ストローク空冷3気筒 / 60PS
会社員時代に所有・現在は手放し済み|カテゴリ:旧車万歳・リターンライダーのバイク記
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